今回のテーマは、焦点深度拡張型レンズ(以下EDOF)です。
このサイトでも、過去に眼内レンズの歴史を紹介していますが、EDOFは世界最先端レベルの技術を用いた多焦点眼内レンズになります。
EDOFって?
EDOFは、Extended Depth of Focusの略称であり、通称「イードフ」と呼ばれます。
日本語に訳すと、焦点深度拡張です。
従来の多焦点眼内レンズは、回析型や屈折型という構造が主流でした。
回析型の多焦点眼内レンズは、同心円上にノコギリ状の段差を持たせ、光を遠方と近方(3焦点なら中間も)に振り分けた構造になっています。
2焦点なら遠方と近方、3焦点なら遠方、中間、近方に焦点を結ぶことができますが、光を分散することになる為、単焦点レンズと比較してコントラスト感度は低下します。
また、光の散乱による夜間のグレア(光がぎらついて見える)・ハロー(光のまわりに輪っかが見える)が生じやすくなります。
屈折型の多焦点眼内レンズは、レンズに遠方用のゾーン、近方用のゾーンを設け、遠近どちらも焦点を結ぶように設計された構造になっています。
例えるなら、遠近両用眼鏡のようなイメージです。
屈折型も、光を遠方、近方で振り分けることになるので、単焦点レンズと比較するとコントラスト感度は低下します。
遠方ゾーン、近方ゾーンの境目により、像のゴースト(物が二重に見える)が生じることがあります。
回折型と比較すると、グレア・ハローは少ない傾向にあります。
EDOFは、光を振り分けることなく見える範囲を広げる(拡張する)構造により、コントラスト感度を比較的維持した見え方になります。
焦点を結ぶ位置の見え方が、比較的シャープな見え方になるのが特徴です。
グレア・ハローも生じにくいメリットがあります。
ただ、近方の見え方は少し弱くなるケースが多いので、手元の細かい字を見る時は眼鏡が必要になる場合があります。
近方の見え方を改善すべく、3焦点EDOFレンズも出現しており、遠方から近方を幅広く対応する高性能眼内レンズになっています。
日進月歩に進化する多焦点眼内レンズ
現在、世界の医療機器メーカーによる多焦点眼内レンズの開発ラッシュが進んでいます。
眼内レンズは、1949年にイギリスの眼科医ハロルド・リドレー医師が発明したことに始まります。
当時の眼内レンズは、PMMA(ポリメチルメタクリレート)というプラスチック製の硬いレンズで、折り畳むことができず、手術の際は6mmの切開創が必要でした。
その後、1990年代に入り、レンズの素材が柔らかいアクリルやシリコン製の眼内レンズが登場します。
これにより、眼内レンズ挿入の際にレンズを折り畳んで挿入することが可能となり、手術時の切開創は小さくなりました。
1990年代後半には多焦点眼内レンズが登場し、日本では2007年に正式に承認されました。
当時は、多焦点眼内レンズといっても遠近の2焦点眼内レンズだけでしたが、今では3焦点、5焦点、EDOF型など、時代と共にさまざまな眼内レンズが登場しています。
ソフトコンタクトレンズにもEDOF技術が採用!?
眼内レンズに採用されているEDOF技術ですが、遠近両用ソフトコンタクトレンズに採用されているものがあります。
従来の遠近両用ソフトコンタクトレンズの構造は、1枚のレンズに遠方、(中間)、近方のそれぞれの度数を配置していました。
EDOF技術を採用した遠近両用ソフトコンタクトレンズは、遠方、中間、近方をまるで木の年輪のように何重にも連続させることで、焦点深度を拡張させています。
この構造により、暗闇などで瞳孔(黒目)の大きさが変化した時や、まばたきなどでレンズが動いた時にも安定した見え方を実現しています。
なぜ、EDOFレンズが視線を変えることなく、遠方、中間、近方を見ることができるのか、みなさんに体感して頂ければと思います。
みなさんの家には、ベランダに出るための掃き出し窓やテラスドアがあると思います。
そこに網戸が付いているでしょうか。
網戸は格子状になっていると思いますが、その網戸越しに外の景色を眺めてください。
そして、外の景色の中に目標物を決め、しっかりと焦点を合わせて見てください。
その後、手前にある網戸に焦点を合わせるよう意識してみてください。
するとどうでしょう、目線を変えることなく、遠くの目標物から網戸に焦点を合わすことができるはずです。
私たちの脳は、網戸越しに外の景色を見る時、無意識に見ようとするものに焦点を合わせる力を持っています。
EDOFレンズはこの仕組みを利用した構造になっているのです。
まとめ
EDOFレンズは、焦点が合う範囲が広く、コントラスト感度に優れた多焦点眼内レンズです。
多焦点眼内レンズを用いた白内障手術を検討されている方は、候補の1つになるのではないでしょうか。
EDOF型でも、各種レンズにより特性が異なります。
ご興味がある方は、手術を受ける施設にてご相談ください。