タッチアップってなに?

みなさんは「タッチアップ」と聞いて何を思い浮かべますか?

野球好きな方だと、「バッターがフライを打ち、外野がボールをキャッチしたのを確認した3塁ランナーがホームへ突進!」、バッターがアウトになってもランナーが進塁できる「タッチアップ」です。

建築関係の方やDIYが好きな方だと、「塗装しているところに修正塗料を塗ること」を「タッチアップ」と言います。

タッチアップペンという修正ペンも売られていますね。

そんな「タッチアップ」という言葉ですが、眼科業界でも用いられています。

何を意味するか想像つくでしょうか?

そもそもタッチアップ(touch up)は英語ですが、直訳すると「小さな変更・修正」です。

この「修正」がキーワードになります。

 

「タッチアップ」それは、白内障手術後の度数微調整法

現在の白内障手術における医療機器や技術の進歩は、目を見張るものがあります。

手術時の切開創、眼へのダメージを最小限に抑えるPEA(超音波乳化吸引術)の確立にはじまり、折り畳み式眼内レンズの登場、高精度なレーザーを用いた白内障手術…。

更には、世界の医療機器メーカーによる多焦点眼内レンズの開発ラッシュが進み、2焦点から3焦点、更には5焦点のレンズまで登場!

白内障手術と同時に、老眼も治療できる時代になりました。

我が国の白内障手術は、非常に安全かつ精度の高い手術が可能になっています。

術後、大半の方が満足されるケースが多いですが、中には「思ったような見え方にならなかった」や「明るくなったけど、鮮明に見えない」といった症状を訴える方もいらっしゃいます。

そのような愁訴がある場合、原因を調べるために種々の検査を行いますが、他の眼疾患に起因するものではなく、白内障手術後に残った乱視、近視、遠視によるものだと判断した場合、レーシックによるタッチアップ手術を行うことが可能です。

眼科における「タッチアップ」とは、白内障手術後に残った乱視、近視、遠視をレーシックで修正することを指します。

 

レーシックとは

レーシックは、眼の表面にある角膜にレーザー照射し、角膜の形を整えることで、屈折異常(乱視、近視、遠視)を矯正する治療法です。

簡単に言うと、眼に入る光の曲がり方を変えることで、屈折異常を矯正します。

簡単に歴史をご紹介しておくと、世界初のレーシックは1990年にギリシャで施行されました。

アメリカでは1998年から、日本では2000年1月から厚生労働省の認可がおり、使用可能となっています。

2000年以降、日本でもレーシックブームがあったのは記憶に新しいと思います。

当時、ごく一部のずさんな衛生管理を行った施設による集団感染事件があってからは、レーシックがやや下火になってしまいましたが、適切な管理の元に行うレーシック手術は、非常に安全かつ効果的な屈折異常矯正法です。

 

どんな人が対象なの?
  • 白内障手術後に残存する乱視、近視、遠視による見にくさを自覚している

白内障手術からしばらく経過し、眼の状態が安定しているにもかかわらず、スッキリせず、見え方が安定しない。

 

  • 見にくさの原因が、他の眼疾患によるものではない

他の眼疾患により鮮明に見えないのではなく、白内障手術後に残存した乱視、近視、遠視が起因していると判断された場合。

  • 白内障手術後、3ヶ月以上経過している

白内障手術直後は、切開創がまだ完全に閉じておらず乱視が残っている。

また、術後の炎症、眼内レンズの安定を考えても、術後3ヶ月以上は眼の状態を観察する必要がある。

  • 角膜疾患がない

レーシックは、眼の表面にある角膜をレーザーで削る為、角膜疾患があると適応外となる場合が多い。

  • レーシックに耐えうる十分な角膜厚がある

十分な角膜厚がない場合、レーシック不適合となる。

  • 医師の判断により、タッチアップ適応と診断された場合

種々の検査結果により、医師がタッチアップ適応と判断した場合、タッチアップに向けた精密検査を行う。

 

術後の屈折誤差を少なくするために

前述した通り、現在の日本における白内障手術は、非常に緻密で安全性の高い治療になっています。

検査機器の進歩も目覚ましく、術後の屈折誤差も少なくなっています。

しかしながら、手術である以上、屈折誤差が生じるリスクを完全にゼロにすることはできません。

では、どのような症例で屈折誤差が生じやすくなるのでしょうか?

 

まず1つ目は、過去にレーシック手術を受けている場合です。

日本では2000年以降、レーシックブームがありましたが、当時、40歳前後でレーシック手術を受けた方が、ちょうど現在、白内障を罹患する年齢になってきました。

レーシック手術では、眼の表面にある角膜をレーザーで削る為、角膜前面が特異的な形状になります。

また、通常の角膜の状態と比較し、角膜厚は薄くなっています。

 

白内障手術に向けた検査では、角膜形状や角膜屈折力を測定するのですが、レーシック手術後の角膜は、この測定値が不安定になります。

眼内レンズ度数決定の際は、角膜屈折力や眼軸(眼の長さ)などの各種測定結果を基に、レンズ計算式を用いて機器が度数決定を行い、最終的に医師がターゲット度数(焦点をどこに合わすか)を決定します。

レーシック手術を行った眼の場合、この角膜屈折力や角膜形状が不安定になる為、白内障術後に屈折誤差を生じやすくなるのです。

しかしながら、これにも対策があり、レーシック眼を対象としたレンズ計算式が存在するので、これを用いるとターゲット精度が向上します。

白内障手術件数の多いクリニックなどでは、最新の検査機器を備えている施設が多いですので、安心して手術を受けることができます。

2つ目の要因は、白内障がかなり進行した状態で手術を受けることになった場合です。

白内障手術に向けた検査では、眼軸長(眼の長さ)検査、角膜屈折力(角膜の光を曲げる力)検査、角膜形状解析(角膜の形)検査、前眼部OCT(眼の内部、角膜から水晶体の状態を見る)検査などを行います。

 

白内障が進むと、水晶体の混濁がひどくなり、眼内へ入る光の量が減少します。

水晶体の混濁が強くなると、検査の測定光も通しにくくなる為、正確な値が出にくくなってしまうのです。

また、各種検査では、安定した固視(目線の位置)が重要になってきますので、見えにくい状態だと固視も難しくなってきます。

更には、白内障が進み、水晶体核の硬化が進んだ状態では、手術の際にPEA(超音波乳化吸引術)を使用できない場合があります。

その場合、昔ながらのECCE(白内障嚢外摘出術)に切り替えて手術を行う必要があります。

PEAに比べて切開創が大きくなりますので、術後乱視などに不利です。

白内障は癌などの悪性疾患とは違い、すぐに手術しなければならない疾患ではないですが、放置しすぎるのは良くありません。

担当のドクターとよく話し合い、手術時期を検討してみましょう。

 

白内障手術は、日帰り手術が可能となり、入院施設を持たないクリニックでも手術を行うことができる時代です。

むしろ、年間白内障手術件数は、大きな病院よりクリニックの方が多い場合もあります。

白内障手術に向けた検査機器、眼内レンズのバリエーションもクリニックの方が充実しているケースが多いです。

今やネットでたくさんの情報を得られる時代ですので、白内障手術に力を入れている施設で手術の相談をされてみはいかがでしょうか。

 

まとめ

眼科における「タッチアップ」とは、白内障手術後に残った乱視・近視・遠視をレーシックで矯正する手術のことです。

白内障手術をしたけど、いまいちスッキリ見えない時は、担当医に話を聞いてみると良いでしょう。