白内障手術に向けて執刀医と話し合うべきこと

白内障の大半を占める加齢性白内障は、程度の差こそあれ誰もが発症する疾患です。

70歳代で80%以上、80歳以上になると100%の方が白内障と言われています。

白内障の症状は、「ものが霞んで見える」、「光が眩しい」、「視力低下」などが挙げられます。

「視覚は人間の情報入力の80%」と言われており、私たちの目から入ってくる情報がいかに大切なのかを表しています。

私たちにとって重要な「視覚」の妨げになる白内障は、最新の医療機器、技術の発展により、非常に安全かつ満足度の高い手術が可能になりました。

白内障手術を終えた方から「こんなに良く見えるなら、もっと早く手術しておけば良かった」という声が良く聞かれます。

そこで今回は、これから白内障手術を検討されている方に向けて、執刀医と事前に話すべき内容についてまとめてみました。

「診察室に入ったら、緊張して言いたいことを言えなかった」という経験の持ち主もいらっしゃるでしょう。

この記事をご覧になり、事前に話したい内容を準備され、皆様に少しでも役立てたら幸いです。

 

執刀医と話すべきこと

白内障手術を受けることが決まると、最も重要になってくるのが「眼内レンズの度数選定」です。

白内障手術では、混濁した水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを挿入します。

眼内レンズは、自在に度数を決めることができるため、どのような度数を選択するかは、事前の話し合いで決めることになります。

術後の満足度を得るためには、この話し合いが非常に重要です。

具体的にみていきましょう。

ライフスタイル

ライフスタイルについてはとても重要な情報源になります。

どの距離のものを見ることが多いのか、眼鏡をかけることに抵抗はあるか、趣味は何かなど、ライフスタイルから得られる情報は多いです。

具体例を挙げてみますので、することしないことをチェックしてみてください。

読書やスマホ、裁縫などは近くの距離で行う近業作業になります。

この距離に眼内レンズの度数を合わせた場合、裸眼で読書やスマホ、裁縫などが可能になりますが、遠くを見る時は眼鏡が必要になります。

車の運転、映画などは遠くを見る作業になります。

この距離に眼内レンズの度数を合わせた場合、裸眼で車の運転、映画鑑賞などが可能になりますが、読書やスマホなど近くを見る時は眼鏡が必要になります。

料理や掃除などの室内で行う作業は、中間距離を見ることになります。

室内である程度眼鏡なしで生活できるように、生活空間に合わせた眼内レンズ度数を選択することも可能です。

 

眼鏡の依存率を減らしたい方は

術後、眼鏡への依存率を減らしたい場合、選択肢として挙げられる方法は大きく分けて2つあります。

1.多焦点眼内レンズ

多焦点眼内レンズは、文字通り「多くの焦点をもつ眼内レンズ」です。

遠方、近方の2ヵ所に焦点をもつ2焦点レンズ。

遠方、近方、中間距離の3ヵ所に焦点をもつ3焦点レンズ。

遠方、近方、中間、遠~中、近~中の5か所に焦点をもつ5焦点レンズ。

などが挙げられます。

通常の単焦点眼内レンズでは、焦点が合う距離が1ヶ所になるので、その他の距離を見る時は眼鏡が必要になります。

多焦点眼内レンズでは、複数の距離に焦点を合わすことができるため、術後、眼鏡への依存度を減らすことができます。

白内障手術と同時に、老眼治療も行うことが可能です。

通常の保険適応外の治療となるため、単焦点眼内レンズと比較した場合、手術費用は高額になります。

多焦点眼内レンズの種類により、選定療養と自由診療のどちらかになります。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

選定療養による多焦点眼内レンズを用いた白内障手術

※多焦点眼内レンズは、1枚のレンズで遠方、近方(3焦点以上は中間も)で光を分け合うため、白内障以外に眼疾患がある方は、適応外となる場合があります。

その他、ライフスタイルの観点、経済的な理由からオススメできない場合がありますので、詳しくは執刀医にご相談ください。

2.モノビジョン法

「多焦点眼内レンズは、費用がちょっと…」という方には、単焦点眼内レンズを用いたモノビジョン法があります。

モノビジョン法とは、左右眼であえて度数差をつけることにより、眼鏡をかけずにある程度の範囲が見えるよう工夫された方法です。

主に利き目を遠方に合わせ、反対の目を近方に合わせます。

左右の度数差が大きいと、より広い範囲が見えるようになりますが、違和感が強くなるので、バランスが重要です。

このあたりは、手術前の眼の度数や患者様の年齢、ライフスタイルなどを考慮し、執刀医が判断します。

私たちの目は2つありますが、ものが1つに見えているのは、それぞれの目から入った情報を脳が処理をしているためです。

神経質な方の場合、モノビジョン法により左右眼の度数差がつくことで、脳がなかなか慣れないことがあります。

比較的、高齢でおおらかな性格の方に合っているといえるでしょう。

職業

現役でお仕事をされている場合、どのようなお仕事をされているかもお伝えしましょう。

どのような距離を見る機会が多いかを判断できるほか、術後に気を付けるべきことをお話ししてもらえると思います。

例えば、タクシー運転手で車の運転をする場合、遠くの距離を見る機会が多いことが分かります。

夜間の運転もあるでしょうから、対向車のヘッドライトが眩しいといった愁訴があるかもしれません。

特に多焦点眼内レンズを選択した場合、ハローグレアといった光を眩しく感じる症状を感じる傾向が強いです。

次第に慣れてくる傾向にありますが、改善しない場合は、夜間運転対応の遮光眼鏡等で対策をとることができます。

タクシー運転手を例に挙げましたが、このように事前に職業を知っておくことで、適切なアドバイスをすることができるのです。

趣味

趣味についても、重要な情報源になります。

例えば、ハイキングが趣味の方の場合、遠くを見る時間が長くなります。

裸眼の状態で、山頂から眺める綺麗な景色をハッキリ見ようとすると、眼内レンズの度数は遠方に合わせる必要があります。

反対に、裁縫が趣味の方の場合、近くを見る時間が長くなります。

裸眼の状態で、裁縫をしようと思うと、眼内レンズの度数は近方に合わせる必要があります。

術前の眼の度数、眼鏡の装用サイクル

術前の眼の度数(各種検査で判断可)、眼鏡の装用サイクルも欠かすことのできない情報源です。

もともと近視がある場合

例えば、ハイキングが好きな方で、眼内レンズの度数を遠方に合わせたいと依頼があったケースを考えていきます。

その方が、もともと近視でスマホや新聞を裸眼で見ており、遠くを見る時は遠用眼鏡を装用していたとします。

この方に眼内レンズの度数を遠方に合わせると、遠くは裸眼でハッキリ見えますが、今まで裸眼で鮮明に見えていたスマホや新聞が見にくくなります。

術後は近用眼鏡が必要になり、今までと眼鏡の装用サイクルが真逆になってしまいます。

適応能力の高い方は、慣れるのが早いこともありますが、大抵は慣れるまで時間を要してしまうケースが多くなります。

よって、もともと近視がある場合、眼内レンズ度数を遠くに合わせたいという強い希望がなければ、あえて近視の状態を残して、近方をハッキリ見える度数を選択するケースが多くなります。

もともと遠視がある場合

遠視の方の場合を考えていきます。

そもそも、遠視は「遠くが良く見える眼」とイメージされることが多いようですが、厳密には間違いです。

遠視の眼は、眼内に入ってきた光が網膜(フィルムに相当)の後方に焦点を結ぶ眼であり、網膜に焦点を合わせるために、眼の中の筋肉を使って常にピント調節をしています。

若い頃はピント調節力が強いため、容易にピント調節ができていても、歳を重ねるに従い、ピント調節力は衰えていきます。

近方を見る時はよりピント調節力が必要なことから、遠視の方は老眼の自覚が早い傾向にあります。

よって、比較的早期から近用眼鏡(老眼鏡)を装用されているケースが多いです。

この話の流れだと、もう答えは出たようなものですが、遠視の方の眼内レンズ度数は遠方に合わせるのが最も自然になります。

術前から近用眼鏡を装用していることから、術後に近用眼鏡を装用することに抵抗はないはずです。

遠視の方が、術後、近方に眼内レンズ度数を合わせてほしいと依頼があった場合、遠くを見る時に眼鏡が必須になることを理解してもらう必要があります。

術前と異なる見え方になるため、注意が必要です。

遠視の方は、眼の中の前房(水晶体前面と角膜後面のスペース)が浅い傾向にあります。

前房は、房水と呼ばれる眼の中の水で満たされており、健康診断でもよく測る眼圧に関わります。

この前房が浅いと、房水の流出路にあたる隅角と呼ばれる部分が狭いケースがあり、房水の流出を阻害してしまうことがあります。

前房が浅いことを浅前房、隅角が狭いことを狭隅角といい、閉塞隅角緑内障(房水の流出が阻害されることで生じる急性の緑内障)の危険因子となります。

白内障手術にて、水晶体を取り除き眼内レンズに入れ替えることで、レンズの厚みが薄くなり、狭かった隅角にスペースが生まれます。

これにより、急性緑内障発作の予防としても有効になります。

気になることはなんでも相談を

白内障手術に向けた眼内レンズ度数選定の流れはご理解頂けましたでしょうか。

医療機器や技術の発展、眼内レンズの進歩により、患者様のライフスタイルに合わせた精度の高い白内障手術が可能な時代になりました。

冒頭でもお話したように、「視覚は人間の情報入力の80%」と言われており、「見える」ことは非常に価値の高いことです。

人生100年時代と言われる昨今、「見える」喜びと共に、セカンドライフを満喫されてみてはいかがでしょうか。

気になること、不安なことがあれば、手術を受けられる施設へ相談してみると良いでしょう。

きっとなんでも優しく答えてくれると思いますよ!