今回のテーマは「正確な術前検査は満足度の高い白内障手術に繋がる ―眼底検査編 Part2―」です。
前回のPart1では、現代の代表的な眼底検査をご紹介し、その進歩にも触れてきました。
正確な術前検査は満足度の高い白内障手術に繋がる ―眼底検査編 Part1―
今回のPart2では、白内障手術で眼底検査が必要なワケについて解説していきます。
白内障手術で眼底検査が必要なワケ
- 視力低下の原因が眼底にも存在しないかの確認
「見にくい」「かすむ」「眩しい」といった症状は、白内障の方に多い愁訴です。
検査、診察により水晶体混濁が確認されると、白内障と診断される訳ですが、見にくさの原因が白内障だけではない可能性があります。
もし、眼底の網膜に疾患があると、白内障手術により濁った水晶体を取り除いても、網膜疾患により見にくさが残ってしまうことが考えられます。
事前に説明があれば患者も納得されますが、事前に説明がなかった場合、「せっかく手術したのに見え方が変わらないじゃないか!」と不満が出る可能性があります。
例えば、加齢黄斑変性という網膜疾患があります。
網膜の中でも黄斑部という視力の要となる中心部があるのですが、その最も大切な黄斑部に変性が起きてしまう疾患で、視力低下の原因になります。
この加齢黄斑変性ですが、文字通り加齢に伴ってその発症リスクが上がり、50歳以上の約1.2%(80人に1人)が罹患しています。
年々、罹患数は増えてきており、決して珍しい疾患ではありません。
加齢黄斑変性の方に白内障手術を行うと、白内障が原因となる見にくさ、霞み、眩しさは取り除けますが、加齢黄斑変性が原因となる見にくさ、霞み、眩しさは取り除けません。
そのあたりをしっかり理解して白内障手術を受けて頂く必要があります。
特に、加齢黄斑変性の程度が強い方は、視力の回復は困難な場合がありますが、白内障手術により「以前より明るく感じるようになった」とおっしゃる方が多いです。
このように、白内障手術前には眼底疾患の有無をしっかり確認しておく必要があります。
また、眼底は身体の中で唯一、直接血管の状態を観察できる器官です。
眼底検査を行うことで、眼疾患だけでなく、全身疾患の有無も知ることができます。
代表的なものとして、糖尿病、高血圧、動脈硬化などが挙げられます。
尚、糖尿病がある方は、白内障に罹患する年齢が早い傾向にあります。
- 多焦点眼内レンズの適応判断
多焦点眼内レンズは、老視矯正レンズとも呼ばれ、遠くと近く(種類によっては中間も)にピントが合う高性能眼内レンズです。
多焦点眼内レンズは、どんどん進化してきており、私が白内障手術を受ける年齢になったら、問答無用にチョイスしたい眼内レンズです。
高性能な多焦点眼内レンズですが、1枚のレンズで遠方と近方(種類によっては中間も)に光を分けるため、眼底疾患があると、多焦点眼内レンズの性能を発揮できないばかりか、逆に見にくくなってしまう可能性があります。
多焦点眼内レンズは、遠方と近方で光を分ける分、遠方の光、近方の光はそれぞれ少なくなってしまいます。
健康な網膜(=フィルム)であれば、充分な解像度を保有していますが、網膜に高度な障害があると、振り分けられた少ない光(=情報量)では充分な解像度を得られない可能性があります。
よって、多焦点眼内レンズを選択する場合は、眼底疾患の有無を把握しておく必要があります。
一方、最新鋭の多焦点眼内レンズでは、特殊な技術を用いて焦点深度を拡張させ、多焦点機能を搭載したレンズが登場しました。
このようなタイプの多焦点眼内レンズは、光を振り分けるのではなく、遠方、中間、近方の焦点を連続して広がるように見せる技術を用いています。
ドクターによる総合的な判断になりますが、これらの多焦点眼内レンズの登場により、今後、眼底疾患がある眼でも多焦点眼内レンズ適応となるケースが出てくるでしょう。
まとめ
眼底検査は、白内障手術を受ける前に必ずしておかなくてはならない検査です。
せっかく白内障手術を行って水晶体の濁りが取れても、網膜に病気があり、術後も見にくさが改善しなければ、患者様が不満に感じてしまうこともあるでしょう。
また、多焦点眼内レンズの適応判断について、眼底疾患の有無が関わってきます。
よって、満足度の高い白内障手術を行う上で、眼底検査も欠かすことはできません。