正確な術前検査は満足度の高い白内障手術に繋がる ―眼内レンズ度数計算式編―

白内障手術では、混濁した水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを挿入します。

眼内レンズは、コンタクトレンズのように度数があり、手術後どの距離に焦点を合わすかを選択することができます。

これを専門用語で術後ターゲットと言います。

術前の屈折度数(近視・遠視・乱視)、趣味、ライフスタイル、年齢、本人の希望などにより、術後ターゲットを決定します。

術後ターゲットに合わせた眼内レンズの度数選定に欠かせないのが、前回の記事でご紹介した眼軸長測定器です。

 

正確な術前検査は満足度の高い白内障手術に繋がる ―眼軸長測定器編―

 

この眼軸長測定器において、眼内レンズ度数選定のアルゴリズムに用いられるのが、眼内レンズ度数計算式です。

今回は、眼内レンズ度数計算式について解説していきます。

 

眼内レンズ度数計算式とは?

眼内レンズ度数計算式とは、白内障手術の際、どれくらいのパワーの眼内レンズを使用すれば、どれくらいの屈折値になるのかを予想する計算式です。

みなさんの眼の屈折値は、主に角膜、水晶体、眼軸(眼の長さ)によって決まっています。

このうち、白内障手術で濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを挿入します。

角膜、眼軸は手術の後も変わらないので、これらの正確な数値が分かれば、どれくらいの度数の眼内レンズを挿入すれば、どれくらいの屈折値になるだろうと判断することが可能です。

その計算に用いられるのが、眼内レンズ度数計算式です。

 

眼内レンズ度数計算式の進化

眼内レンズ度数計算式の歴史を紐解くと、1967年まで遡ることになります。

この時代の眼内レンズ度数計算式は、虹彩支持型の眼内レンズを対象としており、模型眼に基づいた理論式を用いていました。

その後、現在と同じ後房型眼内レンズを対象とした眼内レンズ度数計算式が登場、有名なSRK式が広まり、第1世代の眼内レンズ度数計算式と呼ばれるようになります。

ただ、この計算式では、術後前房深度が考慮されていない為、近視が強い長眼軸長眼、遠視が強い短眼軸長眼に屈折誤差が出ていたようです。

次に、眼内レンズ度数計算式の歴史に大きな変化が起きたのは、SRK/T式をはじめとする第3世代の眼内レンズ度数計算式が登場した時です。

第3世代の眼内レンズ度数計算式では、角膜屈折力を考慮してELP(眼内レンズ固定位置)を予測するようになり、術後ターゲット予測の精度が向上します。

第3世代のなかでも、SRK/T式は術後の成績が良く、現在でも世界各国で使用されている計算式です。

この第〇世代という表記ですが、第4世代までは広く用いられていたものの、それ以降の眼内レンズ度数計算式ではあまり用いられなくなっていきます。

では、現在ではどこまで進化しているのでしょうか。

光線追跡法と呼ばれる、snellの法則により光線の軌跡を計算するOKULIX式やOlsen式の眼内レンズ度数計算式の登場。

そして、詳細はブラックボックスになっていますが、ガウス原理に基づいた眼内レンズ度数計算式となるBarrett UniversalⅡ式は、SRK/T式を凌駕する計算式との評価もあり、広く普及してきています。

術後の成績が非常に良い眼内レンズ度数計算式の1つです。

更には、人工知能の応用となる放射基底関数を使ったHill RBF式というハイテクな眼内レンズ計算式まで存在しています。

眼内レンズ度数選定の要となる計算式の進化は、ますます白内障手術の精度を向上させているのです。

 

まとめ

眼内レンズ度数計算式の進化は、満足度の高い白内障手術を陰で支えています。

術後ターゲットの予測精度が向上することで、患者様のニーズに合わせた、より細かなレンズオーダーが可能になりました。

狙い通りのターゲットになるからこそできる、小技を効かせたレンズオーダー。

眼軸長測定器が“表の進化”だとすれば、“裏の進化”は眼内レンズ度数計算式です。

表裏一体の進化が、白内障手術をよりレベルの高いものにしてくれているのです。